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2023年 年頭所感
新しい年を迎えられたことにお慶びを申し上げます。今年は癸卯(き・ぼう)の年です。「癸(みずのと)」は十干の最後であり、次の生命を育む準備ができた状態を、「卯」は、十二支の4番目で、草木が地面を覆うようになった状態を表すそうです。既に、春の兆しが始まり、これまで培った実力が試される新たな局面に向かうと解釈できます。
本年は、関東大震災から100年目、東京大空襲から約80年にあたります。現在の東京や大阪には当時とは比較にならない程の密度と高さの構造物が林立しています。東京に大地震が起これば、群衆雪崩、未治療死、火災旋風、化学工場の爆発、地震洪水、水の備蓄不足、そして、円・日本株の暴落、経済崩壊につながるとNHKで報じられていました。ミサイルによる空爆、あるいは大規模テロ攻撃でも同様でしょう。
耐震工学と耐震基準は、これまで地上に存在しなかった高さ、規模、そして内容物を持つ構造物を大量に生み出し、わが国を始めとする世界中の地震危険地帯の都市を埋め尽くして、戦後の経済発展の原動力となりました。教科書や解説書には、地震が発生すると物には慣性力という外力が作用すると書かれています。超高層ビル、原子力発電所、新幹線高架橋から木造住宅まで、慣性力を使った詳細な計算によって設計されています。
地震の作用を想定地震動から計算した慣性力で表して設計する方法は、関東大震災の7年前の1916年に佐野利器によって提唱された方法ですが、木造住宅や中低層の鉄筋コンクリートビルを対象に、構造物が剛であり、弾性的に応答するということを前提にしていました。ところが、戦後、慣性力を用いて、様々な形や規模の構造物の応答を計算し、弾性領域を大きく超えた範囲まで適用するようになります。地震が発生すると慣性力が作用するということは、物理の法則のように語られ、信じられています。しかし、慣性力は、実在する力ではなく、動くところから見ると、止まっているものでも動いて見えるという現象を数式で表したときに生ずる項に過ぎません。英語は、fictitious force(架空の力)です。
当然、架空の力を用いた見かけ上の計算結果は、現実とは大きく乖離することになります。実際に、阪神淡路大震災では、設計の想定を数倍超えた地震動に遭遇したと考えられる三宮周辺でも、倒壊した建物は数%でした。一方で、新幹線高架橋は、激しく倒壊し、その後、想定地震動を変更した計算に従って鉄板で補強しても、今世紀に入り、被災を繰り返しています。震災後に三木市に建造された超大型震動台による実大実験では予測に反する結果が次々に得られています。しかし、設計計算や予測計算と現実の乖離を問題視する声は聞かれません。国の調査委員会は、大震災の度毎に、耐震基準は妥当である。旧基準構造物の耐震化を急ぐべきであるとの発表を繰り返しています。
耐震補強をしていない旧基準建物や、設計計算をしていない伝統木造で、激震地で無被害のものが多くあります。そもそも、新耐震基準は、大地震では構造物が使えなくなっても命が助かればよいという基準ですが、これでは、生活や事業ができなくなります。架空の力で設計された構造物に埋め尽くされた大都市が、実際の震災や空襲で、どのようになるかは予測できませんが、使用できない建物や施設が林立することはほぼ確実です。
私たちは、この問題を前にして、20年余りに渡って、大地震は、実際には構造物にどのような作用を及ぼすのか、安全性と使用性を維持するのどのような構造か、どのように設計したらよいか、どのような材料で作り補強したらよいか、どのように性能を調べられるかを追求した結果を、収震(Seismic restoration)と題して昨年12月に出版しました。
大地震に対する構造物の応答は大まかにしか計算や予測ができないという認識に立ち、破壊したときのフェイルセーフ機構(Fail-safe mechanism)を重視する方法です。構造物が大地震でも、重力を支え、元の形と空間を保ち、内部の人や設備を傷つけないように、高弾性材料で復元性を高めることが基本になります。設計計算は倒壊危険度(If値:Index of failure)を主な指標とする簡単なもので、工事は安価、迅速です。私達は、収震を用いれば、世界で最も厳しい条件の中でも、東京、大阪などの大都市、そして我が国を、安全で快適な街と国にできると信じています。本年は、皆様に収震をご理解いただき、お使いいただけるように一層努めます。本年も、宜しくお願いします。


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収震
現実に即した新しい地震対策です
耐震工学の教科書や耐震基準の解説書には、地震が発生すると慣性力が作用して揺れると書かれています。しかし、慣性力は、架空の力(fictitious force)で実際に作用する力ではありません。収震性は構造物が持っている慣性と弾性の現れで、地盤の揺れを自らの変形で収める性質です。収震構造はこれを高め、大地震でも安全で使用できる可能性の高い構造です。この設計方法が収震設計法であり、収震性を高める補強が高弾性材補強です。
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高弾性材補強(SRF工法)
しなやかな高弾性材料で補強します
通常補強に使われている鉄や炭素繊維などの固い材料は、地震で激しく動くとコンクリートや木材を破壊するか剥がれてしまいます。SRF工法は、ポリエステル繊維をベルト状、シート状に織った扁平でしなやかな高弾性材料で補強する方法です。木材やコンクリートを壊さずにひび割れや亀裂に弾性的な復元力を与えて大きく変形しても元に戻る収震構造物を造る方法です。
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微動診断
実測により診断し実現可能な補強を提案します
微動診断(MTD)は、建物の各フロアに微動計を置き、常時微動を測定し、耐震性の評価に必要な各種の指標を直接計算します。建物に関する図面、既往の診断結果等の資料の分析結果と比較し、構造物の性能を評価します。大地震に対する使用継続性と安全性を確保する収震補強計画案を提示します。測定は1日、分析と報告書の作成は1週間~1ヶ月程度です。
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SRF研究会
SRFで無被害化とフェイルセーフを目指します
構造品質保証研究所(SQA)が所有するSRF工法に関する各種の知的財産権、ノウハウを、SRF研究会を通じて、設計、施工される企業に提供しております。本会は、設計部会、施工部会、材料製造会社から構成されています。入会は随時受け付けております。会員専用ページから、各種指針、技術資料、講習会映像等を閲覧、ダウンロードできます。
収震:地震の揺れを自然な変形によって収める
地震が起こると、地面はその位置と向きを大きく変えます。従って、地面の上に建っている建物、インフラ施設など(構造物)は、揺れを小さくするためには、図に青い線で示したように大きく変形する必要があります。しかし、従来は、揺れや被害は構造物の変形によって生ずると信じられていました。そこで、柱を太くし、耐震壁を入れたり、免震・制震装置を用いて変形を小さくするような耐震基準が作られました。ところが、図に赤い線で示すように、地震を受けたときにほとんど変形できないと、地面と同じように大きく激しく揺れてしまい、中にいる人や設備の損傷は避けられません。さらに、地面と一緒に動こうとするので、大きな力(地震力)を受けて弱いところから壊れてしまいます。東日本大震災、熊本地震などで、写真のように耐震基準を満たした建物や耐震補強済みの建物の内部が惨憺たる状況になり、あちこちに大きな亀裂が入ったことが多数報告されています。壁や装置で変形を抑えようとすると、大地震では大きな揺れと力を生じてしまい、被害が生ずることは、図のように空から地面と構造物の両方を見れば一目瞭然ですが、従来は、動く地面の上から構造物を見て設計していたので気付かなかったようです。

物には、力が加わっても元の位置に留まろうとする慣性と呼ばれる性質があります。また、自然な形に変形して、力が抜ければ元の形に戻る弾性という性質もあります。これらによって地面も構造物も元の位置の周りで、常に振動しています。地震によって、地面がもとの位置から大きく激しく動いても、図の太い線で示したように構造物が自然な振動を続けられれば、それほど揺れずにすみます。これは、しなやかな材料でコンクリートの柱や壁、木造の接合部を補強すること(SRF工法)で実現できることが、理論・実験と実測で確認され、近年の地震で実証されています。地面から来た地震のエネルギーは構造物を壊すような力に変わることはなく、反射して地面に返っていきます。地震が終われば、揺れは自然に収まります。これを収震と呼んでいます。変形を抑えようとする耐震、免震・制震とは違い、自然な変形で揺れを収める新しい方法です。さらに、SRF工法は万一地面が想定を超えるような動きをした場合でも柱が床を支持し続けて倒壊の危険性を減らすフェイルセーフ効果もあることが実験で確認され地震で実証されています。

