収震は、現実に即した新しい地震対策です

耐震基準では、地震が発生すると建物やインフラ施設等の構造物の各部分には、慣性力という外力が作用するとして、これに対して、構造物の内部に発生する力や変形を詳細に計算して安全性が評価されています。計算される力や変形が許容値に収まらなければ、鉄筋、鉄骨を増やす補強が求められます。しかし、これは、慣性力に関する誤解と誤用です。慣性力は架空の力であり、実在するものではありません。架空の力に対して計算される耐震強度や変形の多寡は、現実の安全性とは別物です。架空の力に対して、鉄筋、鉄骨で抵抗しようとするのは無意味です。収震は、架空の力を用いるのではなく、現実の地震作用を捉えて、高弾性材料によって構造物の復元性を高めることで、安全性と使用性を確保する新しい方法です。

地震が発生すると慣性力が物を揺らす架空の世界

耐震工学の教科書や耐震基準の解説書は、地震が発生すると構造物には慣性力と称する外力が作用するということを、恰も、物理の法則であるかのように謳い、これに基づいた細かい計算で構造物の安全性が評価されています。これは、慣性力と地震の作用に対する誤解と誤用です。慣性力は、実在する力ではなく、動くところから見ると、止まっているものでも動いて見えるという現象を数式で表したときに生ずる項に過ぎません。英語は、fictitious force(架空の力)です。

現実の世界では、図の左上に描いたように、地震が発生すると震源から伝わってきたエネルギーEによって、地盤も、地盤上の物も動き、変形します。ところが、図の右下に描いた耐震設計の架空の世界では、地震が発生すると、全ての物の全ての部分に、慣性力qが発生し、これらを一斉に動かします。太陽も雲も、物の位置を測定する絶対座標系の原点Oも動き出す奇妙な世界です。全ての物を1つの点で表す1質点系と呼ばれる世界であれば、地震の作用を慣性力で表すことができますが、現実の世界では無理です。耐震設計が描く構造物は、1質点系を見かけ上3次元に拡張した架空の世界のものであると考えられます。

現実の世界の建物の揺れと架空の世界の揺れ

  • 耐震設計用のソフトの揺れ
  • 実際の揺れ

左のアニメーションは、耐震設計用のソフトで描いた6階建のマンションの地震による揺れです。建物を点と線でモデル化して、各点に慣性力を掛けて計算されています。一番下の点(面)は全く動いていません。各階はほとんど傾かずに動いているだけです。右のアニメーションは、このマンションに一階おきに計測器を置いて、実際の揺れを計って映像化したものです。一番下の一階の床面がまず動いて、この揺れが上に伝わっていき、屋上で反射して、戻ってきた揺れと重なって、各層が傾きを伴いながら、複雑な動きをしていることが分ります。これが現実の現象です。一番下が動かないのに上に載っているものが勝手に動くのは架空の力である慣性力による計算の結果で、現実にはあり得ない映像です。

耐震設計の結果1 応力集中、増大、及び大きな揺れ

図の左に描いたように、耐震設計の架空の世界では、地震が起っても地盤は変形しないし動きません。慣性力あるいは地震力と呼ばれる外力が構造物を揺らし、変形させます。地震力は、耐震基準の計算式に従うので、必要な抵抗力を得る為に、鉄骨ブレースや壁、あるいは、免震・制震装置を入れることで、倒壊を防止できます。ところが、現実の世界では、右の図のように、これらは、応力の増大、集中をまねき、周囲を破壊するか自分が破壊する危険性が生じます。構造物の内部と上部には、大きな加速度を生じるので設備機器が損壊する危険性も増します。耐震設計は、架空の力に対して現実の物で抵抗しようとするので、このような不合理を生じてしまいます。実際に建物にどのような力が生ずるかは、建物の周囲の地盤がどのように揺れるか、建物がどのように造られているかで全く違ってきます。この事実を無視した結果です。

応力集中、増大、及び大きな揺れの被災事例

写真は、2010年までに、鉄骨ブレースによる耐震補強が完了していた校舎です。翌年の東日本大震災で、被災しました。専門家の調査では、修繕で対応できるということでしたが、町は建て替えを表明し、取り壊され、町費で2階建てに建て替えられました。架空の世界で慣性力に対して改修設計された構造物は、現実の世界の地震に遭遇すると、変形を抑えきれずに破壊する。内部は大きな加速度を受けて損傷するということを、この事例は、大きな精神的苦痛と経済損失とともに示しています。

耐震設計の結果2 不自由な足元

耐震設計の専門家は、図の左のように、慣性力は、空中から作用し、壁が受けとめて、上階から下階へ流れて基礎から地盤に伝わると教えられています。従って、基礎と土台、柱は地面と離れないように緊結します。架空の世界では、慣性力つまり地震は設計基準や告示に従うので、緊結が切れたり、柱が折れたりすることはありません。現実は、逆様で、地面が動き、1階から上層階へ、地震波が伝わっていきます。足元が適度に浮き上がったり、動いたりして、構造物が全体として自然に運動することが地震の作用を和らげることになります。現実の地震では地面は傾きをともない上下左右に激しく動くので、免震装置は、この動きで、自身が破壊するか、取り付け部が破壊する危険が生じます。基礎と構造体の緊結に関する不合理な考え方は、本末転倒した現代の耐震計算の帰結であり、この技術は大地震には適用できないことを示すものであると考えられます。

不自由な足元の実験による実証

Eディフェンス

写真は、2009年10月に、E―ディフェンスを使って行われた3階建ての木造住宅2棟を並べて震度6強の揺れを加える公開震動台実験です。向かって左は、旧基準で、耐震診断で現行基準並みでないと判定されるもの、右が、現行基準を1.5倍上回る耐震性があるように補強してあり、長期優良住宅としてお墨付きが与えられ、様々な優遇が受けられるというものです。

  • Eディフェンス
  • Eディフェンス

実験動画が公開されていますが、右がひっくり返り、旧基準の方は電燈も消えていません。柱が浮き上がって、構造全体で生き物のように自然に運動し変形して震動台の動きに対してバランスを取ってました。一方、右は、足元が震動台に縛り付けられたように不自由な動きしかできずに、1階と2階の間で折れる不自然な変形を強いられて結局倒壊していることが見て取れます。

現実の大地震で使い続けられる可能性の高い構造:収震構造

地震は、図に矢印で描いたように震源から放出された震動エネルギーEが、周辺の地盤から構造物へ流入することにより、構造物が震動する現象であると考えられます。構造物の損傷は震動エネルギーが内部で非弾性力に変わることにより生ずる。倒壊は、重力に対する支持力を失うことによって起こると捉えることができます。従って、大地震の作用を受けても使い続けられる構造は、次のような構造であると考えられます。

  • 震動エネルギーの構造物への入射量を減らし、構造物からの放出量を増やす
  • 内部で非弾性応力と非弾性ひずみに変わる量を減らす
  • 構造物内でのエネルギーの集中を避ける
  • 重力に対する支持力を失わない

以上の性質を備えた構造を、震動エネルギーを収める構造という意味で、収震構造Seismic Restoring Structure)と呼びます。

収震性、収震構造物と収震設計法

地上の物は、地盤が揺れても、元の場所と形を保とうとする慣性と弾性と呼ばれる性質を持っています。震動を収める収震性はこの現れであると考えられます。この性質を高めて、地盤が大きく変形し動いても、構造物が元の形に戻り、重力に対して自身と内容物を支持し続けられるようにすることが収震設計であり、これを可能にする補強が収震補強です。
収震性の高い構造物は、図に描いたように、大きく地盤が動いても、各部分が元の位置から大きく動かないような固有変形形状と比較的長い固有周期を持つことが理論的な検討と微動計測によって確かめられています。架空の力を用いた耐震設計法を廃止し、不合理な耐震診断や耐震補強を現実に即した方法に転換することが、東京をはじめとする我が国の大都市を大地震による壊滅から救う第1歩であると考えられます。収震設計法と微動診断、そして高弾性材補強は一つの方法です。以上の根拠と内容は、収震(書籍の紹介へ)に記載されています。